書評:AI時代の経営

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今回の書籍:「AI経営で会社は甦る」冨山和彦著、文藝春秋、2017年3月20日発行

 

AI時代は「デジタル革命第三期」にあたり、「バーチャル・サイバーからリアル・フィジカル」への移行が起きる。すなわち、グーグルのようなウェブの世界、ソフト/デジタルの世界での戦い(=デジタル革命第二期)から、ハードとソフトの融合、アナログとデジタルの融合の戦い、「C(カジュアル)」から「S(シリアス)」に移行(=デジタル革命第三期)する。そのような時代を勝ち抜くための経営は?というのがこの本の主題です。

 

デジタル革命第三期を勝ち抜くために必要な要素として、「オープンとクローズドのハイブリッド経営システム」「(異質な人材が共存する)ワイガヤ空間」といったキーワードが挙げられています。そして今後は、「L(ローカル)型産業」にこそ「S(シリアス)の世界」の住人にチャンスがあるそうです。

 

これを被雇用側の視点で見つめなおしてみましょう。まず「L(ローカル)の世界」にチャンスがあるのは、すなわちスマイルカーブの下流で顧客接点を握っているからです。医療や介護、小売、飲食といった産業は比較的小規模の事業者、中小企業による地域密着型経営が多く見られます。こういった事業は、「G(グローバル)の世界」におけるIT化とはこれまで縁遠く、人と人との接点・コミュニケーションが重視されてきた世界と言えるでしょう。だからこそ、グーグルやアップルと勝負することもなく共存してこられたとも言えます。

 

これら「L(ローカル)の世界」では、接客、カウンセリング等「人と接する力」「人の気持ちを理解し、対応を変える力」が重要となってきます。これはAIの苦手な領域でもあります。もっとも顧客接点に立つ人でも、定型作業等「自動化」が可能な領域もあります。そこはAIによる生産性向上が可能です。しかしながら、そこには「ハードとソフトの融合」「アナログとデジタルの融合」も必要であり、「C(カジュアル)」ではなく、データの蓄積やリアルな経験が重要な「S(シリアス)」が求められるのです。

 

まとめると、AI時代においては「L(ローカル)の世界」に強い中堅・中小企業にもチャンスがあります。そのチャンスをつかむには、「ハードとソフトの融合」「アナログとデジタルの融合」を可能にする「S(シリアス)」が重要です。これを実現するには、「オープンとクローズドのハイブリッド経営システム」「(異質な人材が共存する)ワイガヤ空間」が必要とされるというのが、本書の主張ではないでしょうか。中堅・中小企業にとって言うは易し、行うは難しの課題でもありますが、ぜひともチャレンジしていきたいものです。