第24号 北朝鮮情勢が予断を許さない中、南シナ海では

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いまだ北朝鮮情勢が予断を許さない5月18日、中国とASEANの高官が南シナ海問題について協議し、「行動規範のフレームワーク」について合意したと発表しました。

 

類似の合意は過去にもなかったわけではありません。1996年にはASEANが法的拘束力のある「行動規範」を提唱しました。2002年に中国とASEANは「行動宣言」を発表し、平和的紛争解決や平和と安定を維持するための自己抑制を謳いました。

 

今回の合意に基づいて8月の外相会議で発表されるであろうフレームワークの草案に、法的拘束力が明記されるかどうかは定かではありません。中国としてはアメリカや日本を含むG7等、域外国の干渉を防ぎ、当事国間の協議でできるだけ自国に有利な解決を図りたいということでしょう。

 

これに対しアメリカは24日、トランプ政権初の「航行の自由」作戦を敢行しました。中国の領有権主張に対抗するためです。続いてG7首脳コミュニケでも東シナ海と南シナ海情勢への懸念を盛り込み、「全ての当事者に係争のある地形の非軍事化を追求するよう要求」しました。

 

当然ながら中国はこれに反発しています。「G7や域外国は無責任な発言をやめ、地域の平和安定に建設的な役割を果たしてほしい」との談話を発表しました。

 

もっとも、トランプ政権がどれほど「航行の自由」作戦に熱心かは疑問です。北朝鮮問題で中国の協力は必須であり、かつ、トランプ大統領は「取引」で交渉するところがあります。北朝鮮問題で中国が協力するなら、南シナ海では譲歩するということも、十分考えられます。国連海洋法条約等の国際法を、トランプ大統領が本気で守ろうとするかも定かではありません。

 

そのような状況を見越して、中国はASEANとの直接交渉を進めているのでしょう。フィリピンのドゥテルテ大統領は歩み寄りを見せています。他のASEAN諸国も、海上の建造物について何も手を打てないのが現実でしょう。ゆっくりと、しかし着実に、中国はことを進めています。

 

※写真は本文とは関係ありません。

 

参考文献

“U.S. Navy Conducts First South China Sea Navigation Operation Under President Trump”, The Wall Street Journal, May 24, 2017

“Beijing Protests U.S. Patrol in South China Sea”, The Wall Street Journal, May 25, 2017

“Shoals apart”, The Economist, May 27, 2017

「G7タオルミーナ首脳コミュニケ(骨子)」外務省

「中国、G7宣言に「強烈な不満」 海洋進出めぐり」日本経済新聞 2017年5月28日